ぞいぶろ!

ZOIDSの二次創作イラストや模型カスタムをのんびり投稿するブログです。

 

ZOIDS-Unite- 第23話「過去を包む手」 10 


 ポンポンと励ますように肩を叩かれ、クルトは思わず俯く。

 そんな彼に、スコットは優しく言った。


「まぁ……流石にくたばれは言い過ぎだったと思うけど。博士の言った事は事実だし、正論だと思うよ。どんなに自分を蔑ろにしたところで、死んだ者への償いにはなりはしない。それは、生殺与奪に直接関わる仕事をしている僕達医務員も、身を以て痛感してる」

「……」

「けどね、事実や正論っていうのは、真実から人の想いを削ぎ落した、ただの結果や理に過ぎないんだ。だから時として、人を傷付け、追いつめ、苦しめる事もたくさんある。時には叱る事も、諭す事も必要な事だし、ちゃんと叱ろうとした博士は正しいけれど……今回の事を教訓にして、次はもう少し、相手の気持ちに寄り添えるようになれると良いね」

「……はい」


 クルトが頷いて顔を上げた直後、医務室の扉が不意に開く。

 出て来たレンは驚いた様子でスコットとクルトを交互に見つめていた。


「あれ? スコットさんなんで此処に?? 奥で書類作ってたんじゃ……」

「あぁ、コーヒー欲しくなって、ちょっとテレポートしちゃった」

「えぇ?!」

「冗談だよ。で? カイ君はもう大丈夫そう?」

「あ。はい。ベースに着くまで少し寝るって言ってました」

「そっかそっか」


 うんうん。と頷いたスコットは、クルトを振り返る。


「どうする? 多分横になったばかりだろうから、まだ起きてるとは思うけど」

「……いえ、また後にします。今は少しでも休ませてやりたいですし……泣き腫らした後の顔なんて、俺には見られたくないでしょうから」

「……そうだね。後できちんと謝ってあげなよ。きっとカイ君も許してくれると思うから」

「はい」


 一礼して立ち去るクルトと、その後を追うようにして共に立ち去るレンを眺め、スコットは微笑む。

 そっと医務室内に戻り、半開きのカーテンからベッドを覗けば、向こうを向いて静かに横になっているカイの姿があった。


「なんだかんだ、疲れてたんだな……ま、任務の直後だし、仕方ないか」


 独り言のように呟いて、カイにそっと布団をかけてやった後、スコットはふと思い立ったように、ふわふわと跳ね上がった銀髪を優しく撫でる。


「カイ君。君は本当に、仲間に恵まれてるよ。だから大丈夫。これからまたゆっくり、前に進んで行けば良い……」


 聞こえているのか、それとももう眠っていて、聞こえていないのか……どちらなのかはわからない。

 だが、別に聞いて欲しくて囁いた訳でもない。これは、スコット自身の祈りのようなものだった。

 そっと頭を撫でていた手を離し、半開きだったカーテンをきちんと閉めると、スコットは再び書類作成に戻る。

 その直後、カイは静かに目を開き、撫でられた頭に触れて呟いた。


「何が、盗み聞きしないだ……バッチリ聞いてんじゃねーか……」


 何処か呆れたような呟きとは裏腹に、その顔には、何処か安堵したような笑みが浮かんでいた。

 カイは頭に触れていた手を下ろし、スコットがかけてくれた布団を耳の辺りまで被り直すと、再び目を閉じる。

 やがて静かな寝息を立て始めたカイの頭を、不意に誰かが撫でた……

 彼はあの日からずっと、カイを見ていた。ゴーストの手下に追われていたカイの元に、ザクリスを導いたのも、先程レンと話していた時、差し出されたレンの手をそっと握らせたのも、彼だった。


『もう、立ち止まったりするなよ。カイ。お前にまた親友が出来て、良かった……』


 そっと微笑んだ彼は、人知れずに姿を消す。

 またあの街に戻ったのか、それとも、今度こそ眠りについたのかはわからないが、消える直前……インクのような黒髪に金色の瞳をした彼は、嬉しそうに笑っていた。




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ZOIDS-Unite- 第23話「過去を包む手」 9 


「あ。スコットさん」


 医務室の扉の脇に背を預けて立っているスコットを見つけ、クルトが小走りに駆け寄って来る。

 だが、スコットは穏やかに微笑むと、口元に人差し指を立てて見せ、小さな声で呟いた。


「カイ君に用事だろ? 少し後にしてもらえないかな?」

「わかりました……あの、何かあったんですか?」

「んーん。レン君と少しお話し中なだけさ。そっとしておいてあげて」

「はぁ……」


 クルトは思わず首を傾げたが、医務室の扉越しに微かに聞こえた泣き声に、彼はそっと俯く。

 そんなクルトを見つめて、スコットは優しく囁いた。


「大丈夫だよ。レン君がカイ君の話を聞いてあげてるだけだから」

「そう……ですか……」

「うん。カイ君の事はレン君に任せよう。あの子は、人の痛みに寄り添える優しい子だからね」


 そう言って、スコットは手にしていたマグカップに口を付ける。

 クルトは不思議そうに彼を見つめ訊ねた。


「ところで、何故わざわざ廊下でコーヒーを?」

「あぁ、カルテとか診断報告書とか、処置履歴とか……色々作ってる途中で飲みたくなったんだけど、お邪魔して良い雰囲気じゃなかったんで、こっそり隣の手術室から出て淹れて来たんだ。……ついでにカイ君が落ち着くまで、こうして人払いしてるとこ」

「そうでしたか……」

「まぁ、ぶっちゃけそれは建前で、面倒臭い書類作成をサボってるだけなんだけどね」


 悪びれる様子もなくニッコリ笑うスコットに、クルトは苦笑を浮かべる。

 もう一口、コーヒーを啜った後……スコットは不意に真面目な顔でクルトを見つめた。


「カイ君はさ……いい加減な子なんかじゃなかったよ」

「え?……」

「あの子はただ、色んな物を抱え込み過ぎて限界だっただけだ。追いつめられた人間は視野が狭まる……誰かを頼るとか、前向きに考えるとかいう選択肢が見えなくなって、自分に怒りを向ける事で、心のバランスをかろうじて保っていたんだと思うよ。あの子にとって、あの街に赴くってのは……そのくらい辛い事だったんだと思う」

「……」


 突然のその言葉に、クルトは思わず黙り込む。

 かつて目の前で親友を奪われた街……そんな場所にまた踏み入るのは、確かに辛かっただろう。

 その親友との思い出だって、街の至る所にあったに違いない。それすらカイを残酷に苛んでいただろう。

 何処へ行っても、殺された親友の影がチラつくあの街で、ロクに訓練も受けていない状態の少年が、たった1人で任務をこなす……

 いくらカイ以上の適任者がいなかったとはいえ、こうして改めて考えてみれば、彼にとってどれだけ酷な任務であった事か……と、思わざるを得ない。

 ガーディアンフォースの隊員であるとはいえ、まだ10代の未成年……そんな彼が必死に、残酷な思い出に圧し潰されそうなのを耐え、始めての単独任務を果たし……生きて戻って来た。

 その結果が、この扉越しに聞こえる泣き声なら……あの時の自分の言葉は、なんと配慮に欠けたものだっただろう……


「俺……カイに酷い事を言ったんです……いくら任務の効率の為とはいえ、自分から怪我をして……そんなのただの自己満足だと、何の償いにもなりはしないと……それだけじゃない。怒らせたのは俺の方だったのに、俺あいつに……そんなに死に急ぎたいなら、1人で勝手にくたばれって……言おうとしたんです。その事をもう一度、きちんと謝りたくて……」

「だから此処に来たんだね。偉いよ。クルト博士」




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ZOIDS-Unite- 第23話「過去を包む手」 8 


 そっと、頬を包んでいた手が離れても、カイはレンを見つめていた。

 そんなカイの前に、レンがふと、手を差し出す。

 差し出された手とレンの顔を交互に見つめ、戸惑った表情を浮かべるカイに、彼は言った。


「なぁカイ。良かったら、俺とも親友になってくれませんか?」


 にっこりと笑うレンに……カイは、その手を取りかけて俯く。


「お前と親友になれたら……すっげー嬉しいと思う。けどそしたらいつか……ラシードの事……忘れちまいそうで……」

「怖いか?……」

「うん……」


 小さく頷いたカイに、レンは少し考え込んだ後、笑顔を浮かべた。


「大丈夫。絶対忘れねーよ」

「そう……かな……」

「あぁ! だって俺も覚えてるから」

「え?……」


 再び戸惑ったような表情を浮かべたカイへ、レンは得意げに語った。


「だって、ラシードの事、俺に話してくれたじゃん。だから俺も絶対に忘れない。カイに、ラシードっていう大切な親友が居たって事」

「レン……」

「お前の中で生きてるラシードも含めて、俺、お前と親友になりたいんだ。駄目かな?」

「……」


 その笑顔が、不意にラシードの笑顔と重なった。


『俺、お前と親友になりたいんだ。駄目か?』

(あぁ……そっか……)


 その一言は……かつて、ラシードに言われた言葉と、同じであった。

 見つめていたレンの顔が、再び涙で滲んでいく……

 まるで、見えない手に導かれるように、カイは差し出されたレンの手を、そっと握り返していた。


『駄目な訳ねーじゃん! 俺も、親友になるならお前が良い』

「駄目な訳……ねーじゃん。俺も、親友になるなら……お前が良い」


 嗚咽交じりのその一言もまた、かつて、ラシードに返したのと全く同じだった。

 また泣き出したカイのすぐ傍へ座り直したレンは、その過去も全て包み込むかのように、新たな親友を優しく抱きしめて困ったように笑った。


「カイって意外と泣き虫なんだな。弟と一緒だ」


 小さな子供のように泣きじゃくるカイを抱きしめたまま、再びその背を優しくトントンと叩いてやれば、カイは泣きながらも何処かいじけたように、ぽつりと呟いた。


「……怪我」

「ん?」

「怪我が……痛ぇだけッ……だから、すぐ泣き止むからッ……」

「……別に良いよ。しばらくこうしててやるから、今のうちに気が済むまで泣いとけ」


 その言葉に対する返事は無かったが、カイの左手が、遠慮がちにレンの服の端をそっと握る……

 レンにはそれだけで十分過ぎる程、彼の気持ちが伝わって来ていた。

 “ありがとう”と……




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ZOIDS-Unite- 第23話「過去を包む手」 7 


 語り終えた後も暫く泣いていたカイがようやく泣き止んだ時、最初に口を開いたのはレンだった。


「そっか……お前が嘘を吐かないのを信条にしてんのは、ラシードとの約束だったんだな……」

「あぁ。この約束が……ラシードの形見だから……破りたくなくて……」

「……そうだな。その約束が、ラシードが居た証……だもんな」


 穏やかに呟きながら、彼はカイの背を優しくトントンと叩いている。

 小さい頃、泣き虫だった弟を泣き止ませる為によくこうしていた。

 最初は「ガキ扱いするな!」と怒るだろうか? 逆効果だろうか? と思ったが、特に嫌がる素振りは無いので、少なくとも機嫌は損ねていないらしい。

 レンは視線を泳がせるかのように、ぼんやりと天井を見上げて呟いた。


「一瞬でも……親友を見捨てようとした。か……だから自分をずっと責めてたんだな……」

「信じてたのに……なんて、被害者面する資格、無かったんだ……あんな奴等の言葉で、ラシードを疑っておいてさ……裏切ったのは俺の方だ……だから……」

「……だから、今回の任務で烙印捺されたのも、怪我したのも、自分への罰だって思ってるのか?」


 感情の消えたその一言に、カイが微かにビクッと肩を震わせる。

 レンはそんな彼をチラッと見た後、静かな溜息を一つ吐き、背を叩いていた手と共に項垂れた。


「……あのさ。カイ」

「クルトに言われたから分かってるよ! そんな事したって何にもなんねーって事くら――」

「馬鹿。人の話最後まで聞け」


 カイの両頬を包むように手を添え、ぐいっと自分の方を向かせると、レンは言った。


「ラシードは、お前が大切な親友だから殺せなかったんだろ?」

「……うん。」

「きっとラシードだって、お前を殺さずにいれば、いずれ自分が殺される事になるって分かってた筈だ。それでも、親友のお前を殺さなかったって事はさ、ラシードは命懸けでお前を守ろうとしたって事だろ?? なのに……ラシードが命懸けで守ってくれたお前を、お前が自分で傷付けてどーすんだよ」


 ハッとしたように見開かれた薄紫色の瞳から、また一筋……涙が頬を伝い、レンの手を濡らす。

 レンはそんな彼の目を真っ直ぐ見据えて言葉を続けた。


「自分を責めるのをやめろ。なんて無責任な事……俺には言えないし、言わない。けど、それを言い訳にして自分を傷付けるのは、何にもならないなんてもんじゃない。お前を守って死んだラシードの思いを“踏み躙ってる”って事だ。お前、それで良いのか?」


 後から後から溢れて来る涙もそのままに、カイは微かに首を横に振る。


「俺、馬鹿だ……ずっと自分が赦せなくて……自分を責めるばっかで……自分の事……ラシードがッ……命懸けで、守ってくれた命だなんてッ……俺、今まで一度もッ……」

「……だと思った。自分で自分を追い詰めて、心に余裕無かったんだろ?」


 苦笑を浮かべた後、レンは頬に手を添えたまま、親指で涙を拭いてやりながら優しく呟いた。


「苦しかったよな……ずっと1人で抱えて、自分傷付けてさ……」

「……うん。けど……誰かに言うのが……ずっと、怖かった……」

「そっか……ありがとな。俺の事信じて、話してくれて」


 ホッとしたような穏やかな笑みを浮かべ、レンはそっと言葉を続ける。


「どんなに後悔したって、どんなに自分を責めたって、過去は変えられない。忘れたくても簡単に忘れられるような物でもない。だから結局、抱えていくしかないけどさ……せっかく話してくれたんだし、カイが抱えてた物のほんの何割かでも、これから一緒に抱える事が出来るなら、少しでもカイの助けになれるなら、俺、嬉しいよ」




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ZOIDS-Unite- 第23話「過去を包む手」 6 


『やめろ! やめてくれ!! それ以上やったら死んじまう!! 全部言うから!! だからそいつだけは――』


 必死の懇願に、男達はニヤニヤと笑うばかりだった。


『あぁ。知ってる事は洗いざらい、全部吐いてもらおうか。そしたら命だけは助けてやるよ』

『その代わり、つまんねー時間稼ぎしようと思うなよ。サッサと吐かねーと、こいつもっと悲惨な事になるぜ』


 自分が知り得る事の全てを必死に喋り続けている間も、ラシードへの攻撃がやむ事は無かった。

 どんなに後悔しても足りないような、地獄の光景だった……


「きっと、最初から口を割ってたとしても、結果は同じだったのかもしれない……けどッ……嘘だってわかっててもッ、俺はその言葉に縋るしかなくてッ……」


 全て話し終わった時、もう指一本すら動かせないような状態のラシードが、うつ伏せに転がされ……その背に火が放たれた光景が、その瞬間のラシードの叫び声が、今も脳裏に焼き付いていた。

 男達は火に包まれたラシードを拳銃で撃ち抜き、立ち去った……銃弾はわざと急所を外してあり、それが「最期の最後まで苦しんで死ね」という、言外の捨て台詞である事は明白だった。

 もう救う手立てなど無いとわかっていながらも、カイはラシードに駆け寄り、背を焼いていた火を雪で必死に消し止め、着ていた上着でボロボロになった体を包み抱き起した……

 その時……ラシードは、微かに笑みを浮かべていた。


『ずっと……黙ってて……ごめ……な……』


 途切れ途切れのか細い声に、涙が溢れた……その姿を思い出した今も、同じだ……

 ぽたぽたと零れる涙を拭いもせずに、カイは語った。


「俺さぁッ……言ったんだよ……チャンスなんて腐る程あっただろ? って……サッサと殺せばよかったのにってッ……そうすりゃ……こんな事にはならなかったのにって……」


 だが、その言葉を聞いたラシードは、もう動けない体に鞭打つようにして首を横に振った。


『出来ねーよ……俺に、名前を、くれた……親友に……なって、くれた……使い……走りの、道具……だった、俺を……人間……に、して、くれたんだ……殺せ、ねーよ……』

『だからって……代わりにお前が死ぬ事ねーだろッ……お願いだから……置いてかないでくれよ……』


 消えようとしている命に追い縋るかのように、抱き起していた体を抱きしめれば、ラシードは不意に呟いた。


『嘘……て、駄目だ……なぁ……いつ、死……でも、惜しく、ねぇ……て、思……たのに……ホントは……ずっと……生き、たい……て、思って……』

『ラシード?……』

『カイ……おま……は、嘘吐き……なるな、よ……俺、みたいに……なっちゃ……』

『ラシードッ……しっかり、してくれよ……声、小さくてッ……聞こえねーよ……』

『やく……そく……』


 最期に精一杯の笑顔を浮かべて……ラシードは、そっと息を引き取った。

 その瞬間沸き上がった感情は、たった1人の親友を失った悲しみと、その親友を怒りと疑心に任せて見捨てようとした自分自身に対する怒り、そしてラシードへの謝罪と後悔だった。


『なんでそんな……笑って逝けるんだよ……俺、お前の事……見捨てようとしたんだぞ……自分ばっか……謝りやがってッ……俺にも謝らせろよ……馬鹿野郎ッ……』


 親友の亡骸を抱いたまま、カイはずっと泣いていた。

 雪の冷たさなど気にもならなかった。

 それ以上に冷たい空洞が、ただ、心の中にぽっかりと開いていた……




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